≪羽生は3度目のチャンピオンにならない≫:ウルマノフ、予測不可能なオリンピック、コンドラチュクの≪休眠≫、ミーシンのミスについて
2022年1月28日 エレーナ・ヴァイツェホフスカヤ
羽生結弦は3回連続のオリンピックチャンピオンにはならず、おまけにネイサン・チェンも金メダルを獲れないかもしれない。1994年のフィギュアスケートオリンピックチャンピオンであるアレクセイ・ウルマノフは、このような意見をRTのインタビューで話しました。彼の意見は、いつも最有力選手がオリンピックの表彰台の一番高い所に上れるわけではないというものです。彼は、アレクセイ・ミーシンがソルトレイクシティオリンピックの前にどんなミスを犯したかを話し、マルク・コンドラチュクが氷に出るまでの陸上練習を褒め、デニス・テンとフランク・キャロルが最初のトレーニングでした会話を思い出しました。
- かつてあなたは試合で4回転ジャンプをミスなく跳んだ最初の人になりました。難しいテクニックを必要とするスポーツでは、通常、難しさは用具が劇的に変わった時に次の段階に入りますが、フィギュアスケートではこの点で大きな変化はなかったように思います。ではなぜ1990年代には4回転トウループが英雄的行為と考えられていたのに、今は同じ氷の上、同じスケート靴で、アスリートたちは4回転ルッツ、フリップ、ループを跳び始めたのでしょうか?
- 少し反論させてください。私は1990年に4回転トウループを跳びましたが、これは32年前のことです。そして用具のお話をするなら、これはとても大きく変化しました。少し前に自分の生徒たちにそのことについて話していたくらいです。こう質問しました。≪みんな、数か月履いて滑っている靴がこれくらい壊れたらどうやって乗り切る?≫ 私たちはかつてWIFAの靴で滑っていました。今はおそらくスケーターの誰も使っていないでしょう。その靴はひどくて、実際、本当にぎこちないものでした。アレクセイ・ニコラエヴィチ・ミーシンはその靴を≪スペインのブーツ≫と呼んでいました。曲げることはできませんでした。
この靴は慣らすのに最低でも2週間かかりました。私の祖父は天国にいますが、私がより快適に滑ることができるように内部を革で補強したり、常にこの靴の何かを強化していました。今はみんな新しい靴を履いています。そしてその靴なら次の日には全ての3回転ジャンプを跳ぶことができます。つまり、新しい靴は慣らす必要さえなく、すぐに練習に使えるのです。30年前より種類もずっと多くなりました。それぞれの選手が自分の足に合った靴を選ぶことができます。それに専門的技量も向上しました。
- コーチのですか?それとも選手の?
- もちろんフィギュアスケートの専門家は世界中で増えました。多くの人が講習会やマスタークラスのようなものでも学んでいます。つまり、この意味でも前進する動きが起こり、そのおかげで選手たちは技術を向上できました。そして、4回転トウループは男子シングルスケートでは今はもうウルトラCのエレメンツではなくなりました。
- あなたの最初のオリンピックは5位になった1992年のアルベールビルでした。あなたの人生にこのオリンピックがなかったとしたら、あなたは2回目のオリンピックであれほどうまく演じることができたと思われますか?言い換えると、アルベールビルでの経験はリレハンメルで役立ちましたか?
- あの経験に何か重要な意味があったとは思いません。
- 私が言いたいのはこういうことです。リレハンメルオリンピックはわずか2年後に開催され、男子の試合にはあなたよりもずっと明白に金メダルのチャンスがあったスケーターたちが多くいました。このような筋書きが北京でも繰り返される可能性があると思われますか?もしもの話ですが、北京で今誰も予想していない、例えばマルク・コンドラチュクに≪チャンス≫はあるでしょうか?
- まず、質問して下さって大変ありがとうございます。難しいですが、全く間違いではありません。私はフィギュアスケートにはかなり多くの試合があるとよく言っています。チャレンジャーシリーズ、グランプリシリーズ、ヨーロッパ選手権、世界選手権、四大陸選手権。しかし、オリンピックがあります。この大会は全く別の試合です。そして、何人かの選手たちに巨大な重圧をかけることは絶対的な真実です。オリンピックではメダルを獲れなかったけれどとても素晴らしいプロフェッショナルな人たちがいます。オリンピックは彼らのための試合ではなかったというだけです。
- 同意します。
- ですから、私はオリンピックでは何でも起こると思っています。話に出たコンドラチュクも、特に今シーズン、私に大きな感銘を与えています。私はこの選手をヨーロッパ選手権だけではなく他の試合でも見ました。例えば、デニス・テン・メモリアルで。彼は私をひどく驚かせました。
- 何に驚かれたのですか?
- ホールでの陸上練習の時でさえ、マルクは演技へ向けて自分をどう準備すればいいかを完全なイメージで理解していることに私は気が付きました。彼を側で見ていると、彼はただ寝ているように感じます。しかし、彼が氷に出ると、休眠について話す必要はないことがわかります。
2度のオリンピックチャンピオンであるアルトゥール・ドミトリエフが言うのが好きなように、おそらくこのようにして彼はただ魔法のようなエネルギーを溜めているのでしょう。私はオリンピックでマルクのことをとても気にかけるでしょう。しかし、私たちが言っているように、まずは自分のやるべきことをやってから、どうやって他の人がそれに対処しているのかを見なければなりません。
- かつて難しさの境界線を超えた人として、あなたは2度のオリンピックチャンピオンである羽生結弦の、大ケガやオリンピック欠場の可能性があるというリスクを冒してまで、何としても4回転アクセルを跳びたいという意欲を理解されていますか?彼は気が狂ったのか、それともこれには傑出した考えがあるのでしょうか?
- おそらく、スポーツの高いレベルにいる人はみんな少し気が狂っています。ジェーニャ・プルシェンコを覚えていらっしゃるなら、彼は1つのプログラムで5種全ての4回転ジャンプを跳ぶことを夢見ていました。しかし、それは実現しませんでした。結弦も同じだと思います。しかし、彼がこのジャンプをどうしてもやるというならOKでしょう。跳ばせてあげれば良い。ちなみに、ミーシンはかつてこう質問されました。13歳でトリプルアクセルや4回転ジャンプを教え始めるのは早すぎると思わないかと。それに対して彼はこう答えました。≪みなさんお聞きください。もし男の子がやりたがっていて彼の準備が出来ていることがわかっていたら、何のために彼を立ち止まらせるのですか?≫と。
- あなたご自身は男の子と女の子、どちらと一緒に練習したいですか?
- 誰とでも練習したいですよ。私は選手たちを性別で分けていません。
- もしフィギュアスケートで女子の年齢制限が引き上げられた場合、コーチングの仕事やトレーニング技術で何か変化はあるでしょうか?
- 正直に言うと、そのことで特に問題があるとは思いません。もしそういうことが起こったとしても(ちなみに私はこれに関してあまり確信がありませんが)、私たちが心配することは何もないと思います。なぜならロシア女子たちと戦える選手は何れにしろ少ないからです。もし年齢が上がるのを恐れるなら、コーチの仕事をする必要は全くありません。
- つまり、コーチは何にでも適応する能力を持つ職業ということですか?
- こう考えましょう。20年前フィギュアスケートのルールが変わりました。しかも根本的に。私たちコーチはすぐにそれに適応できたでしょうか?そう、電光石火の速さで適応しました。ですから私は確信しています。もし明日突然女子シングルスケートの年齢制限が上げられたとしても、みんなとても早くそれにも適応すると。
- あなたは私が覚えている限りだとISUのテクニカルスペシャリストですよね。
- より正確に言うと、昔そうでした。そして実際、私はISUの試験に合格した最初の人たちの中の一人で、その資格で試合で働く権利を得ました。
- なぜお辞めになったのですか?
- こう言いましょう。内部からジャッジのテーマを見て、私には向いていないと単純に理解したのです。
- それに関して質問したかったです。少し前にオリンピックチャンピオンのオレグ・ワシリエフがこう言っていました。彼の考えでは今のジャッジシステムはとても時代遅れになり始めており、ジャッジはシステム内部で結果を操作することを覚え、そしてこの操作はフィギュアスケート界全体に負担をかけるネガティブなものになると。この観点に同意されますか?
- 部分的に。フィギュアスケートは決して客観的なスポーツではありませんでしたし、これからも決して客観的にはならないと声に出して言うことから始めましょうか。ジャッジは実際にとっくの昔から結果を操作する方法や、順位の≪正しい≫配置を作り出す方法を理解していました。しかし、私は別のことについてもお話ししたいです。新ジャッジシステムができたばかりの頃、このシステムには毎年とても多くの変更が加えられていました。スピンやステップ、あれやこれや、5も、10も。私たちみんな気が狂い、頭を抱えました。今は変更は非常に少なくなり、これは私の意見では間違っていると思います。バランスのようなものが必要です。
- 説明していただけますか?
- ステップシークエンスについてお話しすると、ショートプログラムのステップは、大雑把に言うと45秒かかり、プログラム全体は160秒です。何のためでしょうか?選手がループとツイズルをどう行うのか、または同じ組み合わせをどう行うのかを確かめるためでしょうか?何のためにジャンプ要素を一つ減らして30秒短くし、男子と女子のフリープログラムの長さを同じにしたのでしょうか?選手たちのスケートをよりクリーンにするためですか?それは起こっていません。より弱いスケーターたちは、プログラムに7本あるか8本あるかに関係なく、何れにしろジャンプを失敗し続けるでしょう。
- 30年くらい前、トム・コリンズの長期ツアーから戻られた後、あなたが私に極めて速く滑る方法を忘れてしまったと言われたのを覚えています。これは、選手が実際に身に付けたスケーティングスキルを失う可能性があることを意味しているのでしょうか?
- 当時きっと私は、大雑把に言うと、オリンピックに向けて準備し、維持していたコンディションがとても速く崩れることがあるということについてお話ししたのでしょう。もし習慣で行っていたトレーニングを急に止めたら、スケーターは実際とても速くウルトラCの要素を行う能力を失います。特にこれは女子に言えます。しかし、元々滑りが速い選手はいつも速く滑るでしょう。
- あなたの以前の指導者が今指導されている様子を見守っていらっしゃいますか?
- 多かれ少なかれ、全てのコーチたちを見守っていますよ。どういったご質問ですか?
- フィギュアスケート界全体が特別に教授と呼んでいるミーシンがミハイル・コリャダをトレーニングし始めた時、多くの人がアレクセイ・ニコラエヴィチが魔法使いのように魔法の杖でコリャダに触れ、≪抜け≫のジャンプがなくなると思っていました。しかしそれは起こらず、私はそれがなぜかを理解しようとしています。
- 私は既に十分成長した同僚で、とっくの昔にコーチングの魔法を信じていません。原則的に選手には新しいコーチとの練習の最初の段階でだけ、目に見える変身のようなものが起こります。その後は全てが何の魔法も感じられない元の鞘に戻ります。その人が練習するかしないか。その人に心理的な安定性があるかないかです。
- 多くの選手たちが、結果を出すのはコーチであって自分たち自身ではないと思っていることにも問題があるように思います。
- 私は今あなたにあるお話をしましょう。亡くなったデニス・テンに関係する話なので悲しいですが、私の見解ではとても素晴らしい話です。デニスが私たちの世界で有名な専門家であるフランク・キャロルのもとへ行き、最初のトレーニングへ行った時、キャロルはフェンスの外に座って新聞を読んでいました。テンは氷に出て、コーチに近付き、こう言いました。≪こんにちは。僕は何をするべきですか?≫
彼は新聞を脇へ置いてこう答えました。≪君、それは私が君に尋ねたいよ。君は何を練習する必要があると思っているんだい?コーチを変えたのは君だし、私から何かを得たいのは君だ。だからそれが何なのか説明してくれ。≫ 私はこれはとても素晴らしいことのように思います。結果を出さなければならないのはコーチではありません。彼はそれを助けることができるだけです。それが全てです。
- あなたはいつだったか、ミーシンは古いプログラムに戻すことは一歩後退することだといつも考えていたとお話しされていました。今はしばしばオリンピックのために古い振り付けが使われていますし、これはトレンドに変わったとさえ言えるかもしれません。これについてどう思われますか?
- 私はこの問題についてミーシンに賛成です。それはまず言っておきます。しかし、続きがあります。選手とコーチが自分たち自身の状況の絶望感に気付いた時、古いプログラムに戻すことは、きっと認められますし何の問題もないでしょう。比喩的に言えば、彼らのもとで火事が起こり、緊急に何かをする必要があるということが理解されています。もしかすると知っている人は少ないかもしれませんが、ジェーニャ・プルシェンコがオリンピックでリョーシャ・ヤグディンに負けた年、彼と教授はまさに大急ぎで既に出来上がっていたフリープログラムを≪カルメン≫に変更しました。(当時見ていた人はおそらくみんな知っているような気が。)変更前の振り付けは、当時、フィギュアスケートでかなりの影響力がある人たちを含む多くの人たちからなぜか批判を浴び、ミーシンはそれに屈しました。そしてこれは私の意見では大きなミスだったと思います。(私は変更前のシルク・ドゥ・ソレイユ好きでした。かなりのプルグラムではありましたが。)
当時、プルシェンコと私は同じリンクで練習していました。そして私はミーシンに近付き≪何のためですか?オリンピックまでジェーニャとあなたにあるのは後1カ月です。周りで言われていることを気にせずに、プログラムをただ仕上げることに価値があるのでは?でもそれを変えるというのはどういう考えですか?≫と質問するのを我慢できなかったくらいです。しかしながら、決定は下されました。その結果、ミーシンとプルシェンコは気が狂うような長い時間を≪フリー≫にだけ費やすことになりました。そしてソルトレイクシティでは起こるはずのことが起こりました。ショートプログラムでジェーニャは転倒し、それで彼のオリンピック金メダルをかけた戦いは終わりました。
- かつてあなたに世界選手権の前に予想をお願いしたら、全てのメダリストの名前を言い当てられました。もし今オリンピック前に同じことをお願いしたら予想していただけますか?
- 今そのことを書くことに意味があるのかどうかわかりません。全てのことが不安定で曖昧過ぎます。おまけに私は予想するのが好きな人間ではありません。しかし、単に直感で、羽生は3度目のオリンピックチャンピオンにはならないように思います。
- ネイサン・チェンに負けるのでしょうか?
- 私はオリンピックチャンピオンには今は誰も予想していないような思いがけない人がなる可能性があると言いたいのです。
- 鍵山優真でしょうか?
- そうかもしれません。個人的には私はオリンピックの表彰台で宇野昌磨をとても見たいです。彼はついに自分の頭の中と友達になったように見えます。もう一人の≪チャンス≫がある選手、それはヴィンセント・ジョウです。3人共≪ダークホース≫と呼ばれる選手たちに含まれますね。
- なぜチェンのチャンスを疑われるのか説明していただけますか?やはりネイサンは参加した全ての試合で十分長い間かなりの点差で勝っていて、前回の世界選手権では羽生に30ポイント余りの差をつけて優勝しましたから。
- 平昌オリンピックで彼に何が起こったか覚えていらっしゃいますか?
- もちろん。彼自身も自分のショートプログラム17位のことを常に覚えていると思います。私はあなたの先輩であるヴァレンチン・ニコラエフが、こういったことは選手の頭の中にしっかりと刻まれているため、特にオリンピック金メダルがかかっている時、そのことを演技中に思い出さないなんて不可能だと説明したことさえ思い出します。
- まさにそれを私も言いたいです。最初にお話ししたことについて繰り返すことしかできません。最も偉大なチャンピオンでさえいつもオリンピックで勝てるとは限りません。ネイサンは他の誰とも比べられないくらい表彰台の上に立つのに値する選手ですが。
フィギュアのジャッジが客観的なわけねーじゃんというのは暗黙の了解みたいな気がしますが、日本みたいに綺麗ごと言わないのは結構好きです。
昔は応援している選手に良い順位になって欲しくて試合が終わった後かなり切れていた(笑)こともありますが、今は基本そういうもんだと思って見られるようになったので多少文句は言いますけどそれほど気にならなくなったかも。(選手本人は違うでしょうけど。)
順位はおまけみたいなものと思って、みんなが自分の力を最大限出して良い演技を見せてくれることを期待しています!