ただのフィギュアスケートファンのロシア語翻訳

フィギュアスケート関連のロシア語記事や動画の翻訳が中心のブログです。

ワシリエフさんのインタビュー:≪ショートプログラムで試合に負けることはできる≫

ロステレの前に出ていた記事です。

russian.rt.com


≪ショートプログラムで試合に負けることはできる≫:ワシリエフ、ペアのアクロバット、トゥクタミシェワの謎とコリャダの問題について

2021年11月25日、エレーナ・ヴァイツェホフスカヤ

 

エリザベータ・トゥクタミシェワは過去のオリンピックサイクルでも既に全ての試合に勝つことができていましたが、些細なことでライバルに譲っていました。このような意見を、グランプリシリーズ第6戦が始まる前日に、ペアのオリンピックチャンピオンであるオレグ・ワシリエフがRTの独占インタビューで語りました。彼は、ダリヤ・パヴリュチェンコとデニス・ホディキンのアクロバティックなスタイルが好きではない理由や、ミハイル・コリャダがクリーンに滑ることを邪魔しているものは何か、そして、試合開始前の公式練習がどれほど重要であるかについても説明しました。

- ソチで、女子シングルにはロシアから一度に3人のオリンピック代表の座を狙っている選手が出場します。その上、彼女たち - カミーラ・ワリエワ、エリザベータ・トゥクタミシェワ、マイア・フロミフ - みんなにグランプリファイナル進出の大きなチャンスがあります。スケーターたちが数ヶ月間、最大限良いコンディションでいるというのはどれほど難しいのでしょうか?

- 信じられないくらい大変ですよ。私自身が滑っていた時より、このスポーツはこの点で全く違うものになりました。私たちの時代には、現在のグランプリシリーズのような形式の試合は、単純に存在しませんでしたから、みんな十分ゆるくシーズンインし、主要大会に向けて徐々にコンディションを整えていました。グランプリシリーズが開催されるようになっても、以前のように、全ての試合の競争で全力を出す必要はありませんでしたし、おまけに十分高い順位が維持できていました。言い換えると、スケーターたちには、10月から3月末までコンディションを維持するという切実な必要性はありませんでした。今はシーズンの一番最初の試合から、特にオリンピックシーズンは、選手みんながあれこれ出場しています。競走があるため、自分の可能性の限界で滑らなければなりません。このレベルを維持することは、まず第一に、ケガの危険性があり、第二に心理的にとても大変です。常に力の限界でトレーニングに励まなければなりませんし、体重を維持しなければなりませんし、その上とても厳しいです。これは本当にとても大変ですが、別の道は全くありません。

- その点で特別に褒めたいのは誰ですか?

- 誰か一人の名前は言いません。ロシアのトップ選手たちはみんなシーズンの一番最初からまさにこういうスケジュールで練習しているので、彼らがレースに耐え抜いてくれることをとても願っています。誰も弱みを見せず、≪投げ出され≫ないように。

- 試合では選手は全く違うかもしれないので、公式練習では正確なことはわからないという意見があります。あなたは何に注意を向けられていますか?

- 公式練習と試合に直接的な関わりは実際にありません。ジャッジやテクニカルスペシャリストにとっては、純粋に実際的な意味があります。彼らは、誰がどんなエレメンツをプログラムに入れているのか、それらがどれくらい安定して実行されているのか、難易度の点で選手たちのポテンシャルはどうなのかを見ています。

- まだ試合が始まる前に、ジャッジの頭の中で点数の90%は付けられているとおっしゃりたいのですか?

- いいえ。そうは言っていません。練習の演技を観察すると、ある程度のことがわかります。例えば、選手がスピンでレベル4が取れるかどうかとか、逆にその要素でレベルを落とす可能性のほうが高いとか。これは実際に正しいことです。なぜなら、試合では全ての進行がとても速く、ジャッジがあれこれの要素を見直す時、リピートできる量は限られていますから。そのため、国際スケート連盟(ISU)も技術審判団に各練習に出席するように要請しています。もちろん、選手の演技構成点も、試合開始までのプログラムのプレゼンにとても大きく左右されます。経験ある指導者たちはいつもスケーターたちに、公式練習では人前で滑ることができなければならないだけではなく、≪身なりが整って≫いなければならない、つまり、最高のイメージで自分たちを見せなければならないと注意しています。

- 東京のグランプリシリーズ大会で、ヴィクトリア・シニツィナがワンフットステップシークェンスでレベル1をもらいました。その後、アレクサンドル・ズーリンは、彼女が突然滑る能力を失った理由がわからないと言いました。しかし、スケーティングスキルと決められた要求を実現する能力は少し違うものです。そうですよね?

- まったくその通りです。私たちが今話しているレベルでは、一部の例外を除けば、スケートはみんなできます。特にアイスダンサーは。誰もがステップやターンできますが、その際にエレメンツをクリーンに実行できる選手はとても少ないのです。ですから、実行された技術がレビューされた後になってまで文句を言うようなことはあってはいけません。難易度のレベルは、多彩なターンの量だけではなく、それらのターンのそれぞれがどれくらい理想的に実行されたのかで決まります。どんな些細なことでも、十分慎重に行われなければレベルを落とす要因になります。そして、そういう細かいことはたくさんあります。

- あなたのお話を聞いて、以前リーザ・トゥクタミシェワが、彼女の特徴であり、時にはかなりルーズなスケートマナーのために、どれほどの点数を失っていたかを思い出しています。

- リーザは基本的にユニークなスケーターです。彼女は過去のオリンピックサイクルでも既に完全に全てに勝つことができていましたが、些細なことで譲っていました。練習や試合や自分のコンディションへの不注意な態度で。私にとってトゥクタミシェワは謎の人物です。能力は絶大で、才能も偉大です。成長してから多回転ジャンプを覚えるのはとても難しい課題です。一般的に思春期までの女子は怖いとか痛いとか言うことがあまりありません。彼女たちは単純にそれを知覚していないのです。(そんなことはないと思うけど…?)歳と共にこの比率はかなり変わります。何をしようとしているのか、それがどう終わるのかがはっきりとわかるものです。しかし、リーザはそれを克服しました!これは今一度彼女のユニークさと非凡さを物語っています。わかりませんが、おそらく、彼女は気持ちに左右され過ぎるのでしょう。しかし、私は毎回、トゥクタミシェワが氷上で自分の可能性の半分も発揮できていないと思わずにはいられません。

- 2年前にアイスダンスに移行した元世界チャンピオンの髙橋大輔が対照的な例として頭に浮かびます。彼のダンスステップは、言ってみれば、全て美しく包装されリボンで結ばれています。

- そうであるべきです。スケーターの主な課題は、自分が行っているエレメンツをジャッジに最大限有利に売ることです。髙橋は、賢明で大人でとても経験ある選手としてそれを良く理解しています。その上彼はいつも素晴らしい達人でした。ですから、彼は自分のステップをジャッジに、まさにあなたがおっしゃったように捧げています。≪ほらこれをあなたたちに差し上げます!受け取って、サインしてください!≫と。私の考えでは、スケーターみんながこういうイメージで振舞うべきだと思います。一人で演じるか二人で演じるかはどうでも良いのです。今は今シーズン髙橋がしているように、自分のスケートを提供することができる選手があまりいません。

- 私はミハイル・コリャダにはそれができると言いたいですが、今のところ私たちは彼が自分のポテンシャルを発揮するのを待っているだけです。これは残念さの理由でしょうか?それとも空席には誰かが現れるものですか?

- ミーシャは、もちろん、とても才能があり、可能性は十分にありますが、自分の人生を変える決心をするのが遅過ぎたのだと私は思います。彼がアレクセイ・ミーシンのもとへ移籍した時、既に自分のそれまでの演技のネガティブな経験に心理的に強く押し潰され過ぎていました。ですから、今、この重荷を抽象化し、実際にできることを披露するのが彼にはとても難しいのです。これはロシア男子シングルの不幸と言えるでしょうか?やはり違うと思います。ロシア男子たちはまだロシア女子のレベルに達しておらず、自分のミスで痛い目に合ったことがなければ金メダルには近付けないということを理解しなければなりません。数年間マキシム・コフトゥンがそういう経験をしていましたが、今はミーシャの順番です。後は、より若い選手たちが自分のミスからだけではなく、先駆者たちのミスからも学んでくれることを願うだけです。

- あなたとエレーナ・ワロワもサラエボオリンピックで金メダルを獲得するために痛い目にあったのですか?

- 私たちの道はとても短いものでした。そのオリンピックのたった1年前に国際大会に出ましたから。当時の世界でのペアの競争レベルはあまり高くありませんでしたが、国内の状況はそうではありませんでした。ですから、全ての自分たちのミスを国内でしてしまいました。ヨーロッパ選手権と世界選手権に出場するのはずっと簡単だとわかりました。

- その際、あなたは同じリンクで同じコーチのもとで直接のライバルたちが滑っているといったことを、身をもって経験されました。そういう雰囲気の中にいるのはどれくらい大変ですか?

- トレーニングではそういう競争は良いものです。なぜならそれは常に選手を押し進めるからです。しかし、心理的にはこれはとても大変です。常にミスをする権利がないということを考えていなければなりません。そして、より強力な神経系を普通に持っている人が、そういう対立では勝ちます。実を言えば、今、ロシア女子はとても似たような状況です。グループ内の競争の方が主要大会よりも激しいです。

- そういった競争で、選手の意識に嫉妬心はあるのでしょうか?

- 心得のある専門家は、決して生徒たちの中の誰かを特別扱いしません。

タマラ・ニコラエヴナ・モスクヴィナはそういう人で、いつもとてもプロフェッショナルにトレーニングプロセス進めていました。彼女の生徒の中には、どうも十分に注意を向けてもらえていない、という文句を言える人はいませんでした。

- かつて、あなたは実際に一人でタチアナ・トトミアニナとマキシム・マリニンをシカゴで指導されていました。今、エフゲニア・タラソワとウラジーミル・モロゾフは、6、7人のトップクラスの専門家たちが同時に指導しています。こういうやり方の長所と短所は何でしょうか?

- トトミアニナ、マリニンと私には何よりも競争相手が足りませんでした。一人で滑るのは基本的に難しいです。常に自分に打ち勝ち、練習を強いなければなりませんから。しかし、タラソワ、モロゾフに起こっていることをご覧下さい。どんなに多くの専門家たちが彼らを指導していたとしても、氷の上で滑っているのは何れにしても彼らだけです。そしてそれは他のペアと一緒に滑っているのとは全く違います。ジェーニャとヴォロージャは、どんなクオリティを増やす必要があるのかを常に感じることができる競争相手が周囲にいたならずっと簡単だっただろうと私は思います。

- 北京の代表を狙う4組のペアのうち、ダリア・パヴリュチェンコとデニス・ホディキンは、見ればすぐにわかるアクロバティックなスケートスタイルで際立っています。ペアスケートは将来こういった方向に進むと思われますか?

- 正直に言うと、私はあまり好印象を持っていません。とても積極的にペアスケートに新しさを取り入れようとしている彼らや彼らのコーチたちには敬意を表したいですが。しかし、純粋に技術的に見ると、いくつものエレメンツにある種の問題があります。

- 例えば?

- 例えば、パヴリュチェンコとホディキンのショートプログラムの始まりにあるアクロバティックに女性パートナーを投げる技です。事実上、これはツイストリフトです。ツイストリフトは、女性が男性の頭上で縦軸ではなく横軸で回転するという点だけが違います。私はジャッジの誰かがこの要素をツイストリフトと考え、0点を付ける可能性を完全に除外していません。

- 私が間違っていなければ、似たようなことがシングルスケートで既に起こっていますね。スケーターがステップシークェンスに幅のある反転ジャンプを取り入れましたが、その要素は単独アクセルとしてカウントされてしまいました。

- その通りです。ですから私はアクロバティックなスタイルが新たな発展の一端を担うとは思わないと言ったのです。もちろん、全てのことに挑戦する彼らは立派です。しかし、そういった新しい試みをルールの枠に当てはめる時は、とても慎重にならなければなりません。

- あなたがただの観客だったとして、1種目のチケットだけ買えるとしたら…

- きっとアイスダンスではないでしょうね。ペアを観に行くと思います。ショートプログラムを。

- なぜですか?

- ある意味では、フリーの方が面白く、エレメンツが多様ですが、ショートプログラムの重要性はより高いと思います。そして、緊張感はフリーの演技前に選手が経験するものとは全く比べ物になりません。なぜかというと、ショートプログラムに出場する時、スケーターたちはリードを確保することもあれば、ウォームアップになることもあります。そして、最終グループに入れないということは何を意味するでしょうか?ジャッジたちみんなが自動的に最も低くて0.5点は演技構成点を下げるということです。ペアではトップ4に入っていなければ、戦いに残れません。ですから、私たちのスポーツでは、ショートプログラムで試合に勝つことはできないが、負けることはできると、本当に良く言われているのです。


「ショートプログラムで負けることはできる」っていうのは最近イタリア大会の鍵山君のフリーの時にも言われていましたね。鍵山君の場合は最終的に勝っちゃいましたが。

figureskaterus.hatenablog.com

ロシアでは良く言われている決まり文句みたいなものかな?「氷は滑りやすい」っていうのも良く言ってますね。